布川事件は、1967年8月の起きた強盗殺人事件で、無期懲役が確定していた二人が無実を訴え続け、昨日再審で無罪判決が出た。

 私にはこの事件の記憶がなく、冤罪かどうか争われていることも全く知らなかった。事件は18歳の時だから報道には接したはずだが、たくさんあるその種の事件の一つとして、記憶に残ることはなかったのだろう。その4年前に起きた狭山事件は、被害者が少女だったことで社会的に大きなな関心を呼んだからよく覚えている。

 さて、無罪判決の決め手になったのは、取り調べの録音テープに編集の痕跡があったことだという。誘導による自白として信用性が否定されたわけだ。当時の裁判でどの程度検討されたのかは知らないが、技術的な限界があったのかもしれない。また、事件の直近に「犯人」とは体型の違う人物を見た、という証言が隠されていたことも報じられている。

 いつもながらの警察のでっちあげだ。有力な物証がない事件では自白が異常なほど重視される。警察は、何としても犯人を挙げねばという強迫観念にとらわれ、疑わしい人物を自白に追い込む。「犯人」は多くの場合すねにキズを持っており、別件逮捕で身柄を拘束されて執拗かつ巧妙に自白を求められる。そして絶望感などから、警察が描いたシナリオに沿って「自白」するのだ。

 こうして冤罪が生み出される。被害者の遺族は犯人が逮捕されれば一安心し、有罪が確定すると一件落着と感じるだろうが、冤罪と判明すればそれらは吹き飛び、「では誰がやったのか」という疑問に変わる。警察も威信がゆらぐ。一貫してほくそ笑むのは真犯人だけだ。なにより、無実の罪で長期間自由を奪われた人にとって、失われた時間は返ってこない。国家賠償法による金銭的補償を受けても、それで時間を買えるわけではないのだ。

 ところで、一般論だが無罪になった人が無実と証明されわけではない。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の大原則があり、完全に疑念が晴れたわけではないのだ。ひょっとすると真犯人かもしれない。その場合は一種の完全犯罪ということになるのだが、極めて稀か、皆無かもしれない。

 普通にイメージされる完全犯罪は、何の証拠も残さず仮に疑われても逮捕や起訴まで行かない、というものだ。ましてや長期に亘る法廷闘争を経て・・・というものではない。そして、長期に亘る法廷闘争の精神的支柱は、やはり「自分はやっていない」ということに尽きると思われる。支援する人達も、その訴えに真実を見るからこそ手弁当で動くのだ。今回の二人も、本当にやっていないのだと思う。だから無罪を勝ち取ったことは喜ばしいが、失われた時間のことを思うと気の毒としか言いようがない。

 また被害者の遺族にとっては、事件は迷宮入りで割り切れない思いが残るに違いない。これも気の毒なことだ。冤罪には一つも良いことがない。

 日本の警察は優秀だが、何事によらず「完全」は成しがたい。優秀ゆえに「完全」を目指し、その結果時に冤罪を生むというのは皮肉なことだ。しかし冤罪は防げると思う。完全が成しがたいことを踏まえ、物証がない場合は強引な自白強要をしないことだ。状況証拠がたっぷりあればその手法もある程度是認されようが、シナリオを作って犯人をでっちあげるのは決して許されない。

 社会が警察に完全を要求するのはある意味当然だが、それが冤罪の土壌になり得る、という認識も必要だろう。被害者や遺族が犯人を捕まえて欲しいと思うのはもっと当然だが、無実の人を犯人にでっちあげることを望むはずはない。警察を信頼した上で迷宮入りになるなら、気の毒だが稀な不運と思ってもらうしかない。

 憎むべきは凶悪な犯罪である。だが、「盗人にも三分の理」という言葉があるように、犯人が凶悪な人物とは限らない。やむにやまれぬ事情があり、保身の意識から完全犯罪を目論むこともあるだろう。それが許されるとは言わないし、仮に完全犯罪が成立しても、当人は一生罪の意識に苦しむだろう。それらをすべて盛り込んで社会を認識するのが妥当な態度ではないか、と私は思う。「罪を憎んで人を憎まず」とはそういうことかもしれない。
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