タイトルの文字は全部漢字だが、「弓」の下に「一」と書く「テ」が変換できないのでやむを得ずカタカナにした。また、著者の名前もさんずいに「旬」という字で変換できない。

 阿テ流為(以下アテルイ)は、通史を読んで、抵抗した蝦夷の名前と知っていたが、それだけだった。通史によれば、アテルイの生きた時代が記録されているのは「続日本紀」だが、肝心な部分が失われており、六国史の概略である「日本紀略」で補完するしかないが、それにはアテルイについての記述がわずかしかないらしい。しかし、著者は「アテルイを顕彰する会」の会長で考古学者でもあるので、発掘でわかったこともあるだろう。

 アテルイの生涯を描いた小説だが、そんなわけで著者の想像による部分がかなり多いと思われるが、荒唐無稽ということは決してないだろう。


 さて、アテルイは胆沢村の村長の長男として生まれ、奈良時代の後半から平安時代初め頃まで50年足らずの生涯だったようだ。その時代、多賀城はすでにあり、朝廷はそこを拠点に徐々に版図を広げようとしていた。そのために次々と柵を設置するのだが、先住民である蝦夷に対しては懐柔と攻撃の二本立て政策をとっていた。アテルイの胆沢村は最も強く抵抗したところで、二度の戦争を戦い抜いた。一度目は痛み分けのような結果だったが、村長である父が戦死し、アテルイは二十代半ばで村長に就任する。村長は軍の最高司令官でもあり、朝廷軍との戦いに備えて様々な工夫をする。周囲の村との協力も必須で、彼はいくつかの村をまとめるリーダーになった。

 アテルイが指揮した二度目の戦争では、準備や作戦が奏功して数倍の朝廷軍を破ることができたが、三度目は十倍以上の軍勢を繰り出してきた。その時の責任者が、かの坂上田村麻呂だ。周囲の村と協議し、やむを得ず降伏することにしたが、あることがきっかけで、生命の保証という条件が崩れる。もう一人の代表である隣村の村長母禮(モレ)が密かに脱走を計画していたのだが、それが発覚したためだった。モレはアテルイの姉の夫という設定になっているが、これは史実としては不明で、脱走のことも含めて著者の創作のようだ。

 二人は都まで連行される。初めは帰順した蝦夷として姓と朝廷の制服を与えられるが、結局死刑になる。田村麻呂の考えが最終的に朝廷に受け入れられなかったためで、それは史実として確かめられている。

 小説は河内での斬首の場面で終わるが、その直前二人はこんな会話をし、最後に頷きあう。


 「モレ殿、いよいよ最期のようですな」
 「うーむ」
 「これまで、いろいろご協力頂いた。感謝申しまする」
 「わしこそ、力不足で申し訳なかった。生まれ変わっても、これまでのように願いますぞ、アテルイ殿」
 「共に、モレ殿」


 802(延暦21)年8月のことだった。


 それから1200年近く経った1994年、清水寺の境内に「北天の雄 阿テ流為 母禮之碑」が建立された。今まで知らなかったが、清水寺は田村麻呂の寄進でできたという。また、「顕彰する会」は、命日を新暦に換算した9月17日を「アテルイの日」と定めた。2003年のことだそうだ。


 六国史は、当然朝廷側の視点で書かれている。田村麻呂の時代を蝦夷の視点で書いたものは、知る限りこの小説だけである、高橋克彦なら書いているかも知れないが・・・。平和に暮らしているところへ、軍を率いて「帰順か抵抗か」と突きつけられる。抵抗したいのは当然だが、相手は強大で勝つ見込みはうすい。かといって、帰順すれば命は保証されるが、税などで支配され、隷属に近い。通史によると、既に帰順して支配する側に回っていた「あざ麻呂」という人物(当然小説にも登場する)の叛乱が、30年ほどに亘る朝廷と蝦夷との戦いの発端だったらしい。帰順が必ずしも本意ではないことが見て取れる。そういったことも含めて歴史なのだ、と改めて思う。このあとも、前九年・後三年の役や奥州藤原氏の繁栄など、東北地方には辺境としての歴史があるわけだ。

 その最古の事件を、フィクションとして楽しみながら知ることができたのは大きな収穫だった。


 
 
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