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 「今上」といふ語を初めて見たのは小学生の時だったと思ふ。教室に歴史年表が貼ってあり、一番上にある時代区分の最新のものが「今上」だった。その前は「大正」、「明治」、更に前は「江戸時代」だった。「いまうえ」って何だらう、今は「昭和」でないの?と思ったが、誰にもその疑問を話さなかった。

 長じて、「きんじょう」と読み今の(現に在位してゐる)天皇を指すことを知ったのだが、近年「今上天皇」といふ言ひ方が広まってをり、私もうっかり使ってしまったことがある。「今上」自体、頻繁には使はれないが、その際は「今上陛下」とするのが通常だった。そして時代は移り、皇室に関はる話題が人々の口に上る事が増え、それにつれて「今上天皇」も増えてきたやうに感じる。そして例の「お言葉」以来天皇議論が盛んになり、ここ数ヶ月はしょっちゅう耳目に触れる事になった。

 上記の通り「今上」は今の天皇を指すのだから、「今上天皇」は重言である。余談だが、「今上」を知るより前に、高校生の兄から「山の中の山中で、武士といふ侍が、馬から落ちて落馬して、腹を切って切腹した」といふ戯れ歌を教はり、後に、「女の婦人に笑はれて」といふ句が入るものも知った。いづれにせよ、重言をからかふものだ。

 そのからかはれるべき重言が、大きな影響力を持つマスコミで流布されてゐるのだ。マスコミが常に正しい言葉遣ひをするわけでないし、「犯罪を犯す」「被害を被る」などの重言が市民権を得てゐるのもわかってゐるが、この国で最大の敬意を払はれる人を指す言葉が重言といふのは如何なものか。


 WIKIに当たってみると、「今上天皇」といふ項目があった。その冒頭に、「今上」は現在の帝を意味する語とあり、少し置いて以下の記述がある。

:大正天皇や昭和天皇と並べて表記したい場合に、「今上」もしくは「今上陛下」では言葉のすわりがよくないことと、「今上天皇」と表記すると語感から客観的な表現に感じられるため、中立を求められる表現の中で使用される頻度が高くなってきた。:

 ふむ、なるほど・・・。「○○天皇」には敬意が含まれてゐない(中立的だ)が、「今上」にはそれがあるので、並べると「すわりがよくない」といふわけか。

 人に対して使はれる「上」に敬意が含まれてゐるのは疑ひないのだが、普通名詞としての「上」との区別のため、「お上」とか「上様」といふ言ひ方が現れたと思はれる。それは、「つけ」から「おつけ」、さらに「みおつけ」「おみおつけ」と美称が重ねられていったのと事情が似てゐる。それを思へば、「今上天皇」が中立的と感じられるのも、ゆゑなしとはできない。現代人の感覚では「今上」に含まれる敬意が軽いものになってゐるのだらう。あるいは、敬意が含まれてゐると思はない人すらゐるかもしれない。

 といふわけで、WIKIが記述する事には一応うなづけるのだが、並列でなく、単に現在の天皇を指すときに「今上天皇」と言ふのは不適切である。不適切ではあるが、すでに広まってしまったものを鎮めるのは、何によらずかなり困難だ。この記事も、残念ながらおそらく数人しか読まないだらう。せめてその数人にでも知ってもらひ、少しでも広めてくれたら・・・と願ふばかりである。
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1949年1月生まれ、還暦を期にブログを始めました。記述することは多岐にわたります。
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