「共謀罪」自体は過去に三度廃案になってゐるが、今回はその要件を厳しくした「テロ等準備罪」を組織犯罪処罰法の中に新設する、といふ案だと思ってゐた。しかし、調べてみるとさうではなかった。「テロ等準備」といふ名称の罪はなく、組織的に犯罪を実行する集団の構成員(二人以上)がある犯罪を実行することを計画し、準備行為に着手すると、計画に携わった人物を処罰するといふ内容である。

 では、なぜ「テロ等準備罪」といふ言葉が使はれてゐるのか。そもそも組織犯罪処罰法は暴力団の取り締まりを念頭に置いたものなのだが、国際的なテロが頻発する状況と2020年の東京五輪がその攻撃目標になり得るといふ認識から、それを防ぐための法整備が必要だと説明されてゐる。そして、万全を期すためには計画と準備の段階で処罰できるやう、前段に書いた内容を組織犯罪処罰法に盛り込む事にしたのである。それでさういふ言葉を使ってゐるらしい。


 さて、この法改正で国際テロは防げるのかと言へば、おそらく無理だらう。もしISなどが東京五輪に限らず日本を標的とするなら、彼らの本拠地で計画を練るはづだ。そして、法案が想定する準備行為としては現地の下見などが考へられる。とすれば、「犯罪を実行することを計画し、準備行為に着手する」といふ構成要件を満たすが、計画者は外国に居るので逮捕できないし、下見する者は計画に携はってゐるとは限らないからやはり逮捕は難しい。

 実際にあるかどうか知らないが、国内のテロ組織ならば準備段階で逮捕が可能かもしれない。とはいへ、競技場などの下見は一般人が見物するのと外見上同じだ。警察官が職務質問を試み、怪しいと思へばどうするか。怪しいだけで逮捕はできないから任意同行を求めるしかないが、拒否されればそれまでである。さらにしつこく、尾行して尻尾を捕まへやうとするのだらうか。それで何とかなるかもしれないが、あくまでも国内組織での話であり、さういふ犯罪に対しては現行法で十分対応できるといふ事を多くの専門家が指摘してゐる。ただし、共謀を処罰する事はできない。

 従って、所謂国際テロ組織に対して有効なのは、彼らの中の一部がある期間日本国内に潜伏し、国内組織と同じ行動様式をとった場合だけであり、しかも現行法での対処も可能である。要するに、現行法制で対処できるものは対処でき、改正しても防げないものは防げない。

 現行法で対処できないのは「共謀」の部分だけだ。すると今回の法案は、やはり「共謀」がメインターゲットといふ事になる。

 私の理解が正しければ、今回の改正案は必要ない。政府の説明では国連越境組織犯罪防止条約を批准するにはこの改正が必要とされてゐる。しかし、改正なくして批准できるといふ説もあり、私にはよくわからない。だから、条約との関連については見解を持ってゐない。

 
 そこで、現行法で対処できない「共謀」について考へてみる。そもそも「共謀罪」が三度も廃案になったのは、思想・信条の自由を侵す虞があるからだった。そこで今回、「準備行為」を構成要件に加へ、それへの歯止めとしたらしい。単純に考へれば、「準備行為」を確認した上で共謀段階に遡るやうに思はれる。ならば思想・信条の自由を侵す事にはならないと言へるのだらうか。ここで国会でのやりとりが思ひ起こされる。

 準備行為として対象になる罪は277もあり、その中に国有林でキノコを採るといふのがある。キノコを売ってテロ資金を稼ぐ事もあり得るといふのが政府の説明だった。好意的に解釈すると、「テロの資金にするには大量に採る必要がある。普通、大量に採るのはそれを業とする者しかをらず、しかも国有林で採るわけではない。だから、国有林で大量にキノコを採る者は怪しいが、少量を採る一般人は対象にならず、共謀云々で内心の自由を侵される心配もない」といふ事にならうか。

 ところが、テロの準備行為らしきものを見つけるために、警察官がキノコの生へてゐる国有林を巡回するとはとても思へない。277の罪に亘ってそんな事をするには膨大な数の警察官が必要だからだ。

 すると、キノコ採りに限らず計画段階を探る必要があることがわかる。そのための方法としてすぐに思ひ当たるのは通信傍受だ。それはプライバシーの侵害であり、ひいては思想・信条の自由の侵害になる。だから特別な場合だけに許される捜査手段であり、安易に範囲を広げるべきではない。テロ防止が目的なので安易に広げるわけではないと言ふだらうが、かういふものは次第に広がると考へるべきである。国家権力の常としてそれが言へる。ちなみに、この法案にはテロといふ言葉は入ってゐない。

 治安維持法は、共産主義や国体変革を目的とする結社を禁じた。それは思想弾圧だが、当時の日本においてはさほど奇異な事ではなかったやうだし、それ以外の思想の自由を侵害するものではないとされてゐた。しかし現実には、政府を批判する言動のほとんどすべてが取り締まられる事態にまでなった。この法案をその再来とする意見もあり、政府はもちろん、賛成者もそんな心配はないとするが、虞があるのは確かである。そして、前回の記事で少し触れたやうに、安倍政権下の現状はその虞を強く指摘する必要を感じさせる。

 
 先日、この法案が衆議院の委員会で強行採決された。数日中には本会議で可決され、参議院でも会期延長を経てさうなる見通しが強い。ただし、公正な選挙で選ばれた国会議員によって決められる訳だし、政権は議員の互選によって成立してゐる。だから、民主主義の建前からはこれが国民の総意なのだとも言へるわけで、その事に私は絶望を感じざるを得ない。思へば、当時世界で最も先進的とされたワイマール憲法下のドイツで、ヒトラーが合法的に台頭したのだっった。

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