サービス業を巡って

サービス業というのを社会科で習ったのはいつだったか、忘れてしまったが、とにかく第三次産業に属するものとして習い、例として床屋とか洗濯屋とかが挙げられていた。その後、役務を提供して対価を得る産業という定義と、なぜそれが「第三次」なのかを知ったのだが・・・。

 さて、ここ20年くらいの間にサービス業の範囲が劇的に広がった。もう少し正確に言うと、「客」という言葉で捉える範囲が広がり、客を相手にする仕事はサービス業だ、という考え方が広まった。管見によれば、まず商業の世界で「顧客満足」という考え方が登場し、それが即座にサービス業に取り入れられた。同じ第三次産業だから当然の成り行きだが、それが「お客様第一主義」に発展する。「すべてはお客様のために」というスローガンも現れた。客に満足してもらうこと、不愉快な思いをさせないことが追求され、客の前では徹底して低姿勢を貫くようになっていく。

 その一方で、これまでサービス業とはされていなかった業界にもその考え方が波及し始め、医療サービス、行政サービスといった言葉が生まれる。患者も住民票を取りに来る人も「お客様」というわけだ。

 そういう傾向は、当然「客」の側にも反映する。少しでも気に入らないことがあれば文句を言うのが当然の権利、という感覚ができてくる。なにしろ、客の職業も多くは広い意味でのサービス業であり、自分が働いている時は「お客様第一主義」をたたきこまれているのだ。そのストレスを、客の立場になった時に発散したくなるのかも知れない。

 今ストレスと書いたが、徹底した低姿勢というのは、プライドを捨てることでもある。相手に非がある場合でも、ご無理ごもっともという接し方が求められるからだ。客はもちろん立てるが主張すべき事は主張する、というのが職業人としてのプライドの一つの表れだが、それを表してはいけないというのはストレスになる。もっと平たく、必要以上にへりくだること自体ストレスになるだろう。仕事にストレスはつきもので、普通は酒を飲んだり趣味に打ち込むことで発散するのだが、店などで発散する者がいても不思議ではない。クレイマーはその最たる例かもしれない。



 インチキ敬語もこういう流れと密接な関係がある、と私は考えている。客を奉るという考え方に立てば、言葉遣いは重要であり、当然敬語を使うことになる。しかし、敬語の使い方をきちんと勉強していないため、とにかく聞きかじった敬語表現を並べることでインチキ敬語になるのだ。それに先だって、インチキではなくても過剰な敬語の氾濫があり、多くの場面で皇族にさえ使わないような言い方がなされるようになった。もちろん客に対する敬意から発しているわけではなく、とにかく客を上に自分を下に、という強迫観念からのことである。「敬語とは、敬う気持ちを表すためではなく、上下関係を表すためにあるもの」という説明が当を得ている証拠でもある。そういう傾向が商売を離れた場面にも波及し、いまや政治家も、他人への発言で自党の人物に敬語を使うという過ちを平然と犯している。



 なぜこんなことになったのだろう。時代とともに第三次産業、中でもサービス業の割合が大きくなったことが底流にあり、その意味では当然と言えるかもしれない。しかし、見逃せないのは競争の激化だろう。特に、バブル崩壊後消費が落ち込み、どの業界も顧客の獲得に必死になった。黙っていても客が来る時代は過去のものになったのだ。「顧客満足」も「お客様第一主義」も、企業の生き残り戦略として編み出されたものだ。それ自体は客も喜ぶことなので文句を言うつもりはないが、時代の必然が競争の激化で加速したわけで、そこに無理が生じる理由があったのかもしれない。




 自分のことを言えば、プライドを捨ててまでへりくだるのは嫌いな性分である。以前、「客に頭を下げるのではない、金に頭を下げるのだ」と聞いた事があるが、それには納得できなかった。まあ、商売人には向いていないということだろう。また、言葉にはうるさい方で、当然敬語法についてもそうだ。だから、過剰な敬語を使われると居心地が悪くなるし、インチキ敬語を聞くと嫌な気分になってしまう。


 多くの分野で少数派だが、この面でも多分そうだろう。だから、多数派からはたわごとと取られるかも知れないが、それで一向に構わない。
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No title

goxiから来ました。

春海さんの書いていらっしゃること全面的に賛成です。

私はウチの会社のお客様から来たクレーム(苦情)に対して、それは私の担当した仕事でしたから、反論しました。反論と言っても私の仕事が正しかったことを知ることの出来るウェブサイトのアドレスを知らせただけなのですが、お客様の反感を買ってしまいました。
今日そのことで営業担当重役から呼び出されて酷く叱責されました。
要はお客様にこびへつらう言葉が一つもなかったから「これでは反感を買うよ」ということなのである。営業のセンスとしてはお客さんが間違っていても「ご尤もでございます。ご指摘くださってお礼の申し上げようもないと同時に、このようなミスをいたしましたこと申し訳ないの一言です」と頭を下げるのが常識らしい。

私に女房子供がいなければ、後先考えずに辞表を出したいところなのである。

No title

いらっしゃいませ、コメントありがとうございます。ほとんど期待していなかった賛成の反応に、気分をよくしております(^^)


 私が駆け出しの頃の話を・・・。先輩が客に非のあるクレームに対して堂々と反論し、主張を通した場面に居合わせました。電話での対応で、見方によってはケンカと思えるほど激しい口調でしたが、その客は離れていきませんでした。40年も前のことで、今ではあり得ないのではないかと思っています。

No title

自分が正しくて、お客様が間違っている…、それをお客様が気分を害することなく気付いてくださる…そう話を持っていく、それが一番難しいと思います。
問題は、どちらが正しいではなく、いかにお客様が気分良く、納得してくださるか、だと思います。
私は、お金に頭を下げる…ではなく、たくさんいる同業者の中で、うちを選んでくださったお客様に感謝していますので、頭は下げます。

No title

ちゅうさん
 確かに難しいですね。そして、その過程でへりくだることが昔よりはるかに求められている、と僕は思います。

 先輩の一件は、それまでの取引を通じて作られた信頼関係があったから、ケンカ別れにはならなかったのでしょう。当時は、営業と顧客は互いに相手を必要とする対等な関係、という考え方がありました。今もあるかも知れませんが、競争の激化で弱まっているだろうと推測します。

No title

ちゅうさん

 多くの同業者の中から選んでくれたことに感謝して頭を下げる・・・これは納得できます。(書き忘れたので)

No title

私も春海さんの意見に同調です(*´∀`*)

確かにお客様=利益を落としてくれる人であり
会社が「お客様第一主義」となるのはわかりますが、何が大切かって、要は「会社の存続」であり
そのためには、CSとESのバランスが必要だと私は思います。

ESって決して、給料とか待遇だけを指しているのではなく、守るべきところは会社が味方してくれるっていう信頼もあると思うんですよね・・

このESを無視して、CSに走りすぎた会社は結果、
理不尽すぎる顧客の対応にもこびへつらわなければ、、という考えが生まれてしまうのでしょうね。

実際に、CSがNO1と称されるディズニーランドは、へりくだったサービスをしているわけではなく、ディズニー側のルールに合わなければ厳しく「出入り禁止」にすることだってあるそう。。。

それでも、ディズニーサービスでは苦情が少ない。それはおそらく、お客様は「customer」ではなく「guest」ととの考え方にあると思うんです。

「guest」と捉え、呼ぶことで、
従業員が自然と「host」として振る舞え、
そのサービスを受けた「guest」も「guest」としての自覚が芽生えるのかなと。
自分が、hostに招かれたguestであれば、hostに対して感謝の気持ちで接しますし、理不尽なことを言ったりもないと思うんです。。

そして、これが、サービス業の本当に向かうべき姿なのかなと。。

以上、ディズニー大好きなayunyanでした
(ノ´∀`*)

No title

ayunyan
 コメントありがとうございます。

 ディズニーランドには行ったことがありませんが、3・11のときの素晴らしい対応に驚きました。

 なるほど、guestとhostですか・・・それで理由がわかりました。

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丸山恒平

Author:丸山恒平
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1949年1月生まれ、還暦を期にブログを始めました。記述することは多岐にわたります。
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