「福島の原発事故をめぐって」 山本義隆

震災後、原発に関する本がたくさん出たが、多くは批判的な立場で書かれている。もっとも、本屋でパラパラと目次を見たりしただけで一冊も読んでいないが・・・。


 しかし、この本は著者が山本義隆なので、出版予告を見た時から読みたいと思っていた。発売日に行ってみたが在庫がなく、取り寄せを頼んで初版第一刷を手に入れる事ができた。


 やはり批判的な立場の本だったが、第一章を読んで流石は山本と思った。他のものにはほとんどない視点で書かれていたからだ。それは日本の原発研究の出発点についてのもので、エネルギー政策ではなく外交政策として始まったという。

 原子力(著者によれば核力だが)は、科学者による発見の後、主にアメリカで軍事利用のために研究された。それがマンハッタン計画で、広島・長崎で使用されたのは誰でも知っているが、戦後アメリカは「平和利用」を打ち出し、発電でそれを具体化した。それは軍事では核兵器の独占をしつつ、最先端の技術を広める中心として、その面でも世界をリードするという目的だった。

 日本も、核兵器を持つことが外交での発言力を強化すると戦後世界の状況を把握したが、被爆国として核兵器は持てない。そこで「平和利用」の面で研究を進め、世界から「その気になればいつでも核兵器を持てる国」と見られることを目指したのだ。原子力基本法は1955年に成立したそうだが、その頃はまだ、石炭から石油への転換も始まっておらず、次の次のエネルギー政策というのはいかにも早い。流石は国のトップという見方もできようし、その面もあったにせよ、何よりも潜在的核保有国になるためだったと山本は言う。単なる推測ではもちろんなく、岸信介もそう考えていたことを彼の回顧録などで検証している。


 また、科学史と思想史の観点からの叙述も豊富で、これも他書にはあまりなさそうだ。それが第三章だが、ガリレオが斜面による実験で落下速度の増加を数式化したことを科学史の画期とする。

 それまで、業には神の業と自然の業、自然を模倣する職人の業の三種類しかなく、人間の業は最も不完全なものと考えられてきたが、これによって自然の法則を見いだし、自然を使役する可能性が見えてきたからだ。それはルネサンス期の思想とも合致していた。それでも技術の多くは軍事や産業によって発展し、科学はその後追いということが長く続いてきたが、原子力の利用は科学に先行された初めての技術として登場するのだ。


 だがそれは、極めて危険な負の部分を持っている。負の部分を制御できないうちは不完全な技術であり、分子レベルまでの技術は多少遅れても制御あるいは修復が可能だが、原子核レベルのものは不可能だ、と山本は言う。そして、大規模な事故が起これば何世代にも亘って住めなくなるような、かつ数万年に及ぶ廃棄物の管理が必要な原発は、永久に不完全なままであり、使うべきではないと言うのが結論である。

 
 原子核レベル云々は、いかにも素粒子論研究者らしいところで、そうなのかと納得させられた。私はこれまで、人間の知恵は制御を可能にするだろうと思っていたが、原子力についてはそれが不可能であること、また廃棄物管理が数万年かかるということを知った今、はっきり反対の立場をとることにした。

 
 ところで、彼が東大を去ってから科学史を研究していたことは知らなかったが、「十六世紀文化革命」も読んでみたくなった。 
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