人間原理

 宇宙論の分野に人間原理という考え方がある。これを知ったのはいつだったか忘れたが、なんだかインチキくさいという印象だった。その後、その分野の本で何度も接したが、いつもそうだったし、そもそも人間原理とは何なのかを説いたものには巡り会っていなかった。

 ところが先日、そういう本を見つけて購入し読んでみた。「宇宙はなぜこのような宇宙なのか」という講談社現代新書で、2013年7月発行なので1年近く見過ごしていたわけだが、さておき著者は青木薫という女性で、京大理学部で理論物理学を専攻し、主に物理学の本を翻訳する仕事をしてきたそうだ。その彼女も、初めて人間原理に接した時ははっきり否定的な反応をしたという。

 しかし、「ミスター人間原理」といえそうな人の著作を翻訳する仕事を打診され、要検討という態度に変わったそうだ。結局引き受けたことで理解が深まり、肯定的な立場に変わった。そして数年後、この本を著すことになったわけである。


 さて本題、宇宙がなぜこのような姿になっているのかはかなり難しいテーマだが、そういうことを考えている人間がいるからこそであり、従って宇宙はそういう存在を許す姿でなければならない、というのが人間原理である・・・これが私のとりあえずの理解だった。これは、神がそのように宇宙を作ったのだ、というのとほとんど変わらないように見え、それが「インチキくさい」という印象のゆえんだった。著者はまえがきで似たような事を書いている。曰く・・・人間原理は露骨に人間中心主義であり、それは「神は存在する。神はこの宇宙を、いずれ人間が登場できるように創造したのである」という意味を含んでいるのではないかと疑われた・・・と書き、続いて以下のように述べている。

 :近代科学は、神という超自然的なものを持ち出さずにこの世界を理解しようと、長い道のりを歩んできたのではなかったのだろうか。かつて人びとは、「宇宙がこうなっているのは、神がこのようにお作りになったからだ」と、何かにつけて神を持ち出して納得するしかなかったのだが、科学はそういう論法から、一歩一歩脱却してきたのではなかったのだろいうか?:

 そして本文に入るわけだが、この本で知った重要な言葉がある。「観測選択効果」というのだが、これと、最新の宇宙論の成果を組み合わせると、人間原理はインチキではないことが理解できた。つまり以下のようなことである。

 観測という作業をするとき、その道具をどう選ぶかによって結果が変わってくる。例えば100倍の望遠鏡ではアンドロメダ銀河はぼんやりした雲のようにしか見えない。実際昔は「星雲」と呼ばれていた。しかしもっと性能の高いもので観測すると、我々の天の川銀河と同じものであることがわかる。これが観測選択効果の一例だが、人間原理とかかわる感じはない。そこで著者は次のような例を挙げる。

 世界の平均気温はどれくらいか?という質問をしてみると、答える人の考える「世界」によって様々な答えがあり得る。例えばメソポタミア文明のころの人ならかなり高い温度、少し時代が下ったころのアフリカ大陸の南端に住む人ならもっと低くなる。そして現代の宇宙的視野を持った人なら3度kと答えるだろう。つまり「世界」をどうとらえるかによって結果が違ってくるわけだが、これも一種の観測選択効果である。

 人間の住む地球を考えた場合、誕生から数十億年の間は人間が存在し得なかったし、五十億年後には太陽が赤色巨星となって地球を飲み込むから、その少し前からもう存在できない。我々人間が存在できるのは、存在できる環境を地球が持っている期間だけであり、これを「人間が存在するためには、地球はこういう環境でなければならない」と言い換えても全然インチキではない。

 全宇宙に広げ、宇宙は我々の宇宙だけでなく無数にあるという現代の知見を取り入れれば、我々人間は、単に存在できる環境の宇宙に存在しているということになる。そのことを、前述のように「人間が存在するためには宇宙はこうなっていなければならない」と言い換えることもできるわけだ。

 無数にある宇宙には、誕生時のゆらぎが小さすぎて銀河のような構造ができないもの、構造ができても物理的な定数が違っていてすぐにつぶれてしまうものなど、いろんなタイプがあり得る。我々はその中のほどよい構造を持った宇宙の中の、天の川銀河の、さらにまた太陽系の中の地球という惑星の、一生のうちのある期間に存在しているだけのこと、と言えるのだ。

 観測選択効果をべらぼうに広い時間と空間で考えるとこうなるわけで、だから、人間の存在する宇宙はこういう姿なのだと説明するのが人間原理という考え方である。まだ完全に理解していないのでうまく表現できないが、おおざっぱには適切なはずだ。


 ともあれ、人間原理はインチキくさいという「印象」から、(まだ不十分だが)インチキではないという一応の「理解」に進歩することができたのがこの本を読んでの収穫である。
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