「なぜ時代劇は滅びるのか」  春日太一

 ある雑誌でこの本を知り、面白さうだと思った。「はじめに」を立ち読みしてその感じを強くし、購入して一気に読んでしまった。


 「水戸黄門」が放送終了になった時、「一つの時代が終わった」といふ調子のマスコミ報道があった。それがちょうど三年前だったのを改めて知ったが、著者によれば2000年頃から人気が急落してをり、いくつか挙げられたその原因の中で「なるほど!」と思ったことがある。

 黄門様に石坂浩二や里見浩太朗を配したことがそれである。このドラマの実質的な主役は色男の助さんであり、力持ちの格さんがその引き立て役、黄門はあくまで後ろで睨みを利かせる司令塔である。だから歴代のドラマ(映画も)は助さんに二枚目の人気俳優を配し、黄門には東野栄二郎以下名脇役を起用してきた。ところが石坂や里見は堂々たる主役を張る俳優だ。その影響で助さんは少し見劣りする者が演じることになり、内容も黄門が前面に出るやうに変はってしまった。この番組を熱心に見てゐたわけではないが、指摘されれば「さうだったなあ」といふ気がする。

 実は、このことのさらなる原因がたくさんあり、本書では時代の移り変はりを通観しながらそれを追っている。するとこれは必然的な帰結であり、時代劇は廃れる宿命にあるといふことがわかってくる。著者は、時代劇を愛するが故にそれを回避したい思ひを強く持ってゐる。「時代劇は死なず」といふ著書もあるのだが、いまや時代劇は、「死なず」ではなく「死にきれずにもがき苦しんでいる」。ならばいっそのこと自分の手で介錯してやるのが愛する者の努めではないか・・・と「あとがき」に書いてゐる、わずかな望みを託しながら・・・。


 さて、「時代の流れ」といふ観点からの記述を割愛しては著者に申し訳が立たない。それをすべて紹介するのは骨が折れるのでやめておくが、大きな流れとしては次のやうな事だ。

 1960年代、映画はテレビに取って代はられる趨勢が生じた。1950年代、観客動員数は常に十億を超えてゐたが、63年には五億に半減する。そして時代劇も、それまでの年間150本前後からわずか2年で半分以下になり、67年にはなんと15本に激減した。

 その趨勢の中で、画面が小さく画質も劣るテレビでは安直な時代劇が作られるやうになった。観る方も家庭での団らんのひとときに軽い気持ちで・・・といふ姿勢になったのでそれでも構はなかったのだ。そのことが作り手の慢心を生み、映画製作会社の苦境と相まって、きちんとした時代劇を作る環境が次第に失はれて行く。一つの現れとして、時代劇には独特の所作や言ひ回しがあるのだが、それらをきちんと身につけて演じる事のできる役者も、指導できる監督もどんどん減っていった。その他にもいろいろなことが挙げられてゐるが、多くは業界の体質に起因することであり、それはさらに社会情勢に遠因が求められる。であれば、時代劇の凋落は時代の必然と言ふしかない。それが前述の「あとがき」での述懐につながるのだ。


 ところで、春日氏は1977年生まれである。日大芸術学部で勉強し、時代劇の面白さに惹かれてその研究を生業とするに至った若者である。よく「その若さで時代劇ですか」と驚かれるさうだが、彼によれば、その感想自体「時代劇は高齢者のもの」といふ偏見(?)によるもので、さうなってしまった理由が本書で解明されてゐる。昔は世代を問はず人気があった。そして、その頃子供だった人が今や高齢になっただけであり、もし述べられてゐるやうな事情がなく、面白い時代劇が作り続けられてゐれば、時代劇ファンも再生産され、今も世代に関係なく一定の人気を保ってゐるはずなのだ。


 春日氏と同じ年齢の息子があり、鞍馬天狗の登場に皆とともに拍手した世代の者として、外れることにわずかな期待を持ちつつ、再び「あとがき」から著者の見通しを紹介してをく。

 :恐らく、時代劇はこのままではそう時間のかからないうちに「死ぬ」だろう。人を育てることを放棄し、若者が希望を持てない業界に未来などないからだ。
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