「下町ロケット」 池井戸潤

 作者は2011年に直木賞を獲ってゐるが、そのこと自体も受賞作がこれであることも知らなかった。もっとも、作品名は知ってゐたが、読まうといふ気はなかった。

 数ヶ月前、TVドラマ「花咲舞がだまってない」を偶然見たのだが、これが実に面白く、後に、「半沢直樹」とともに原作が彼の小説であることを知った。それを教へてくれたのは姉だったが、その際「下町ロケット」のおおざっぱな粗筋も教へられた。

 そんないきさつがあり、今回文庫で読んでみたのだが、実に良くできた小説だと感心した。さすがは直木賞作品である。文庫版なので解説がついてゐるが、それを書いた村上貴史は、タイトルを「絶対の代表作」としてゐる。本文には当然その理由が書かれてゐるが、多くは読みながら私も感じたことであった。

 即ち、京浜工業地帯にある大きくはないが優秀な製造技術を持つエンジンメーカー、「内製化」の方針を打ち出してそこへの下請け中止を通告する大企業、巧妙に技術を盗み、さらには特許制度の隙を衝いて逆に特許権侵害で訴え、法廷闘争の間に体力を消耗したところで吸収合併に持ち込もうとする競合大企業、さういふ危機に助けの手をさしのべない主力銀行、実業界の構造的な理不尽とでもいふべき状態がよく描かれてゐる。

 それだけではなく、主人公である経営者は、元ロケット開発に携はる研究者でものづくりに夢を抱いてゐるが、その夢と現実の経営との葛藤で社内にも不満があるとか、彼が妻と離婚してをり、中学生の娘との関係がぎくしゃくしてゐるがそれを同居してゐる母が宥めるとか、様々な設定が物語に厚みを与へてゐる。

 さて、ストーリーの根幹は、三菱重工を思はせる大メーカーが進めるロケット打ち上げ計画と、それに関はる主人公との熾烈な戦ひだ。大メーカーは、ロケットエンジンの主要な部品(キーデバイス)である精密なバルブを開発したが、特許を取得できない。佃製作所(主人公の会社)がタッチの差で先んじてゐたのだ。それを超えるものを改めて作り出すか、特許権を買うか、もしくは長期に亘って使用料を払うか、選択肢は三つだが初めのものは時間的に無理だ。自社製造を絶対条件とする大メーカーは買い取りか借用を交渉する。しかし、佃の回答は自社で作って提供するといふものだった。

 佃製作所にとって、大メーカーの条件を呑むことは少なくとも中期的な安定経営が保証されることを意味する。しかしそれは佃個人の夢と矛盾する。社内でも反発が起きるし、大メーカーは卑劣な手段をいとはずに夢をつぶさうとする。詳細は省くが、大メーカーにもものづくりの夢を理解し、同時に大企業のメンツも潰さない工夫のできる人物がゐて、結局佃の夢は叶うことになる。それに先だって、訴訟の件では元妻に紹介された優秀な弁護士に助けられるし、資金繰りの面では、正当な評価をする投資会社が現れて窮地を脱するといふ経過がある。

 エピローグは、読み進めば予想されるとはいへ感動的だ。他の作品も読んでみたいと思ったことである。

 
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