AI(人工知能)

 人工知能といふ言葉はかなり前からあると思ふが、最近は英語の頭文字を取って「AI」と言ふことが多い。それはともかく、いよいよ「知能」といふにふさはしくなってきた。ここでは、グーグルが開発した「Alpha GO」のことを取り上げる。

 碁を打つソフトは多分30年以上前に登場したが、当初は初心者レベルで、物足りないものだった。また、おそらく同じ頃、オセロ・チェス・将棋のソフトもあり、25年ほど前に私が手に入れたオセロのソフトはかなり強かった。日進月歩のコンピューター技術で、変化のあまり多くないオセロはさほど時間をかけずに強くなったのだらう。もっとも、私の腕前も大したことがなかったから、私より強いといふだけで、客観的な強さは知らなかった。

 盤上ゲームは、相手の手が見えるといふ意味で不確定要素がなく、必勝法があるらしい。ただし、それを極めるのは難しい。そしてその難しさは変化の多さに関係する。オセロはさほど多くはないので、コンピューターの能力が向上して必勝法をマスターしたらしい。次にチェスがその域に到達し、人間の世界チャンピオンが勝てなくなった。そして将棋、これはチェスよりはるかに変化が多く、なかなか難しかったが、2年ほど前にトッププロが勝てなくなった。

 さて囲碁である。囲碁の変化は10の200乗などと言はれる将棋の比ではなく、10の500乗とか600乗とかいふレベルである。そこで、しらみつぶしに変化を極めることは超高性能のコンピューターでも不可能とされる。だからこそ、第五世代でもアマ初段か二段くらいにしか相当しなかった。しかし、モンテカルロ法といふ方式が編み出され、グンとレベルアップした。これは、ある局面での着手をランダムにいくつか選び、それぞれについて終局までの変化を並べ、最も勝率のよかった手を実際に打つといふものだ。「いくつか」の実数は知らないが、とにかくプロに三子か四子まで肉薄した。

 それでも、まだまだトップにはほど遠い。碁打ちの間では、トッププロといい勝負ができるのは早くても数年後とか、数十年後とか言われてきたが、私は永久に無理ではないかと考へてゐた。

 ところが、昨年秋、Alpha GO が登場してヨーロッパチャンピオンを破った。そして今年、韓国のイ・セドルに対局を申し込んだ。ヨーロッパチャンピオンはプロとしては二流か三流だが、イ・セドルは正真正銘の世界トップクラスである。彼は承諾し、3月に5番勝負を打つことになった。


 さてそのAlpha GO だが、最大の売りは「Deep Learning」である。詳しいことはわからないが、学習できるといふことだ。これまでの囲碁ソフトは、無限に近い変化の一部を記憶し、それをベースに着手を選択するのが基本で、「一部」をできるだけ多くすることで強くなってきた。そして、モンテカルロ法が「鬼に金棒」の金棒のやうな役割を果たし、一つの壁を越えた。Alpha GO は、それらを新たに「鬼」とし、Deep Learning を「金棒」とすることでさらなるレベルアップを果たしたのだ。プロやアマ高段者の碁を1000万局記憶する。加へて、自分で白黒両方を打って研究するのを「一人碁」といふが、それを一日100万局できるといふ。そしてそこから学習して新たな手段を創出することができるらしい。まさしく「AI」である。


 注目の5番勝負は、第4局以外すべて勝ち、4-1で終わった。セドルは、戦前のインタビューで「一つでも負ければ私の負け」と語ってゐたが、逆に一つしか勝てなかったのだ。彼は、ヨーロッパチャンプとの碁を並べて自分には定先くらいと認定したらしい。だから互い先で負けるはずはないと考へたのだ。しかし、半年の間に、学習してさらに強くなってゐたといふのが実態のやうで、その上達スピードは驚くべきものだ。

 世界中の碁打ちが衝撃を受けた。私もその一人である。永久に勝てないどころか、数年ですらなく、今年勝ってしまったのだ。ただ、1敗したことで弱点があることもわかった。2-0の段階で、私はセドルが一つも勝てないのではないかと危惧したのだが、少しホッとしたことではある。もっとも、その弱点も学習によって克服するかもしれない。さうなればいよいよ無敵になってしまふわけだが、これまでの経過からその確率は高いと思はれる。かかる時間は数ヶ月、長くても1年くらいか。ひょっとすると、ひと月くらいでさうなるかもしれない。

 
 そもそも、AI技術には特異点といふものがあり、そこに到達すると人間を超えるとされてゐる。それを「シンギュラリティ」といふらしいが、ロボットが反乱を起こすとか、AIが世界を征服するとか、SFの世界で楽しんだり驚いたりしてゐたことが現実に起こるかもしれない。それは2050年頃と予測されてゐるとあるメルマガで知ったが、最近2029年といふ説も目にした。少なくとも盤上ゲームの世界では、シンギュラリティに達した、あるいはまもなく達すると言へるかもしれない。


 付記するが、グーグルの目標はは囲碁で人間に勝つ事ではなく、医療その他の分野で Deep Learning を行ふAI を活用したいわけで、そのアピールの場として囲碁を選んだらしい。実際、イギリスの医療機関との契約が成立したといふ未確認情報もある。とりあへず、人類の幸福のためにAIを活用するわけだが、シンギュラリテ以後は何が起こるかわからない。ちょっと恐ろしい気もする。
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No title

アルファ碁とセドルの対局結果は、本当に衝撃でしたね。

しかしセドルには感動させられました。その分野のトップの人が全力を尽くして戦った、そのことだけで既に立派ですが、負けたのは人間ではなくてセドルが負けたのだという言葉、素晴らしいと思いました。

それに比べてどんな事情があるにせよ、対局を避けている将棋の羽生名人には、失望しました。そこに山があるから山に登るのだ、そういう気持ちになってほしいものです。

羽生さんが・・・

対局を避けてゐるといふのは知りませんでした。goxiに書きましたが、AI技術者の世界に「羽生超え」といふ言葉があり、将棋ソフトは羽生さんに勝つレベルには至ってゐないと理解してゐましたが、その確認の意味も含めて、対局を実現してほしいものですね。

No title

セドルはあれほどの人ですから、対局を通じてアルファ碁の実力や棋風を理解したのだと思います。自分の棋風がアルファ碁に向いていないだけで、実力的には全く勝てないほどの差は無いと感じたのでしょう。私は彼の言葉をそう理解しました。

カケツもセドルの碁はアルファ碁に向いていない、自分なら勝つと言っていました。

羽生名人は以前、コンピューター碁が馬力に物言わせて全ての手を読むということについて、人間は読む必要のない手を捨てて残った手を読む、そこから最善の手を見つける訳で、捨てるところに人間の美学がある。コンピューターとやればそういう人間の美学が崩れて、おかしな将棋になって行きそうな気がする。そういう意味のことを言っていました。

もう一人の実力者である渡辺さんは、ぜひともやりたいという姿勢でした。なお、私は将棋について何か言うほどの実力はありませんが、愛好家の声をあちこちで見ると、既にもう羽生さんを超えているという見解が多数のようです。

さうですか

 ならばカケツとの対局も見たいですが、グーグルはおそらくもうやらないでせうね(理由は付記の部分)。

 米長氏が対局したとき、ソフトの弱点を考へて「変な手」を指したらしいですが、羽生さんの言葉はどこかでそれに通じるのでせうか。

 羽生さんに勝ち越してゐる渡辺さんがさう言ってゐるのなら、是非実現してほしいです。
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