三笠宮崇仁親王

 数日前に薨去したが、100歳だったといふ。この人については、古代オリエント史の研究者といふ事しか知らなかったが、薨去したことでメディアに取り上げられたので、それ以外の人物像が少しわかった。それらのうち、「へえ、さうだったのか」と思ったのが、やや政治的な発言をしてゐた事だ。それを紹介してゐるサイトにあった著書を図書館で借りて来た。「帝王と墓と民衆」といふカッパブックス(1956年)で、特に「わが思い出の記」と題された、少し長いあとがきといった趣のものにそれがあった。

 この本は、サブタイトルが「オリエントのあけぼの」であり、古代オリエント史の入門書なのだが、「わが思い出の記」は、自己紹介を兼ねてその道に進む事になった経過を述べてゐる。

 1915年生まれの宮は、旧制中学(学習院中等科)で4年間勉強した後、陸軍士官学校に入る。当時は「皇族身位(しんい)令」といふものがあり、皇族男子は18歳以上の年齢で陸軍か海軍の武官になると定められてゐた。ただし、その原則が崩れかけてゐた時代で、別のコースを行くことも不可能だったわけではないらしい。

 ともあれ、1936年士官学校を卒業し、習志野の騎兵隊に勤務することになった。それは乗馬が得意だったことに関係があるらしい。そして1939年陸大に入学し、卒業後、参謀として南京に赴任する。1年間ゐたのだが、ここで本文から引用する。


 :わたしくしの信念が根底から揺りうごかされたのは、じつにこの一年間であった。いわば「聖戦」の実体に驚きはてたのである。罪もない中国の人民にたいして犯したいまわしい暴虐の数かずは、いまさらここにあげるまでもない。かかる事変当初の一部の将兵の残虐行為は、中国人の対日敵愾心をいやがうえにもあおりたて、およそ聖戦とはおもいもつかない結果を招いてしまった。:


 その反省から政府は対華新政策なるものを決定し、現地では、それに基づいて「四悪」を禁止するといふ命令をくだした。「四悪」とは、略奪、暴行、放火、強姦ださうで、それらが横行してゐたからこその命令だったことは明らかだ。

 所謂南京大虐殺を含めた暴虐行為は、戦後11年の時点では周知の事実だった事がわかる。また、皇族である宮はあまり偏った見方をしないはずだし、現地にゐたこともあって記述は信頼できると思ふ。前世紀末ころから南京大虐殺についての議論が盛んになってゐるが、それについては、主な論点は数の多寡にあるやうだが数の問題ではない、「そもそもなかった」などとといふのは論外と発言してゐたさうだ。

 また、青年将校だった時代のことについて二つの深刻な反省をしてゐる。一つは、初年兵教官としての訓話で「大義、親(しん)を滅す」を強調したことだ。これは平重盛の「忠ならんと欲す
れば・・・」から話を起こし、軍人は孝よりも忠を優先すべしと教へたのだが、人間の精神や行動をすっきり割り切るのは無理であることを理解できない年齢、つまり未熟ゆゑの誤りだったとしてゐる。

 もう一つは、上官の命令が正しいとは限らないが、結局は命令に服従することが求められ、自分も中隊長として命令服従の関係を安易に割り切ってゐたことだ。誤った命令によって命を落とした人たちを憐れみ、以上を当時の部下たちへのお詫びとしてここに記したとしてゐる。


 この本からは離れるが、宮は民主主義を歓迎し、いろいろ制約の多い皇族としては積極的に民主主義に基づく発言をしたやうだ。特に、紀元節復活の機運が高まったころ、学問的に根拠がないとして反対を表明し、そのため「赤い宮様」と呼ばれたさうだ。また、天皇の譲位についても、戦後まもない頃に認めるべきといふ見解を表明してをり、それも今回の報道で知った。


 以上、新たに知ったことを書いてみた次第である。
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