越境入学

 私は高校1年の終わりに留萌市から小樽市に引っ越した。人口が3万台前半の小都市から20万弱の中都市への移住は何かと新発見をもたらした。その最初のものは高校がたくさんある事だった。留萌には一つしかなかったが、その一部である工業科が独立して、私が進学した時に二つになった。しかし、工業科新設の際すぐそばに建てられた別棟の校舎がそのまま使はれたこともあって、高校が二つといふ感覚はあまりなかった。

 小樽には道立だけで五つの高校があり、さらに私立が三校あった。人口比を考へると特に多いわけではないのだが、それは後に気づいた事だ。当時、公立は小学区制で、住所によって行く学校が決まってをり、私はC高校の編入試験を受けた。落ちたら私立に行かねばならず、経済的につらい事になるのだったが、幸い合格できた。余談だが、受験者は10名で何名採るかは明らかにされてゐなかった。私は、全員の顔つきをみて枠が6人なら大丈夫と勝手な見通しを立てたが、結果は4名だった。

 さて、クラスにKといふ生徒がゐた。かなり成績の良い男だったが、ある日担任が「K君は今日からO君になりました」と皆に言った。それを聞いた私は、両親が離婚して旧姓に戻った母親と暮らすことになったのだらうと思った。彼とは、クラスメートとして普通に会話があったが、それを確かめることははばかられた。

 真相を知ったのは卒業から数十年後のことである。その頃の私は、校区の境界がどこにあったのかについて気になってゐた。たまに会ふクラスメートや他校の出身者に尋ねる事を繰り返し、次第にわかってきてゐたのだが、ある時Aといふクラスメートが総合的に教へてくれた。その中でタイトルに関係する事は・・・

 成績の良い子供の親の多くはC高校に行かせたがったし、本人もさう考へた。なぜなら、C高校は旧制小樽中学の後身で、所謂名門校だったからだ。しかし、小学区制では住所に制約がある。そこで校区外のさういふ中学生は、一時的に住民票を移してC高校を受験した。あいつもあいつもさうだった。とはいへ、当該地区に親類などがゐる必要があり、断念した者も多い。そして、「あいつ」たちの中で最も制度に忠実だったのが件のOで、彼は母方の叔父の養子になってC高校を受験したのだった。そして2年かそこら経って元に戻した。それがKからOへの変更の真相だったのだ。「忠実」といふのは、住民票さえ移せれば、下宿のやうな形でも、あるいは実際にそこに住まなくてもよかった(らしい)のに、養子といふ面倒な手続きを踏んで万全を期した事を指す。

 3年に進級の際クラス替へがあり、別のクラスになったOとはそれ以来接触がなかったが、卒業40周年の同期会で会へ、当時の推測を話すと楽しげに笑ってゐた。41年間の空白は一瞬にして消え去ったのだった。

 付記するが、私がC高校に行ったのは全くの偶然である。父は教育に熱心だったが、校区の事など全く知らないまま居住地が決まってゐたからだ。しかし、C高校はとても良い学校で、3年C組は素晴らしいクラスだった。その1年間は、私の人生の中で輝きに満ちてゐた時期の一つである。
 
スポンサーサイト
line

comment

Secret

No title

私の兄も住民票を移して別の学区の高校に行きましたが、実際にそこに住むということは全くありませんでした。住民票を写した先は尼寺で、住職の他に住人は居ませんでしたから、引っ越すというわけにはいかなかっただろうと思います。

私自身は1度しかその住職さんと会っていないのですが、とても人間的魅力に富んだ人でした。

No title

やはり実際には住まなかったのですか。いづこも同じだったんですね。
line
line

line
プロフィール

丸山恒平

Author:丸山恒平
FC2ブログへようこそ!
1949年1月生まれ、還暦を期にブログを始めました。記述することは多岐にわたります。
コメント歓迎・反論歓迎・トラックバック歓迎・リンクフリーです。

BLOGRAMに登録しています。できればカレンダーの下のタグをクリックしてください。

line
最新記事
line
最新コメント
line
最新トラックバック
line
月別アーカイブ
line
カテゴリ
line
天気予報

-天気予報コム- -FC2-
line
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
line
フリーエリア
line
フリーエリア
line
sub_line
検索フォーム
line
RSSリンクの表示
line
リンク
line
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

line
QRコード
QRコード
line
sub_line